尻フェチ海鮮丼イーターのメモ

異性のお尻と海鮮丼が好きなキモ男です。普段考えていることを気の向いた時に書いていきます

生まれ変わりについて

まだ六月にも関わらず、近頃は異常に暑い。近所の自販機でジンジャーエールを買って帰り、飲もうと思った時にそういえば冷蔵庫にハイボールがあったなということを思い出した。僕はハイボールは嫌いなのだが、おかしなことにジンジャーハイボールはそれなりに好きである。今日はもう授業が済んだのだから酔っても構わないだろうとジンジャーハイボールを飲むことにした。ハイボールは三ヶ月も冷蔵庫に入っていたので、これ以上ないくらいに冷えていた。

春先の話だが、大学二年生の時に知り合ったYが僕の家に泊まりに来ることがあった。家と言っても借りている狭いマンションで、何か妙なところのある部屋だ。その部屋について話したいところなのだが、それはまた別の機会にしようと思う。

Yはリュックサックからハイボールと果実酒と鮭の干物を出すと僕に渡してきた。彼なりの手土産らしい。不器用な猫が人間に貢ぎ物の魚を持ってくるみたいだと思った。僕はハイボールが好きでないから飲みたいとは思わず、冷蔵庫に押し込みながら「前にも言ったけれど僕はハイボールが好きじゃないんだ。どうせくれるのだったら他の酒にしてくれれば良いのに。まあでもこれは今度いただくよ。ありがとう。」と言った。

Yは果実酒をグラスに注ぎながら生まれ変わりについての話を始めた。転生などはいかにも仏教的で、あるいは古代ギリシャの宗教のようで、あらゆる宗教を嫌悪する僕にしてみればおもしろくなかった。

「お前、来世では何になりたい?」

「そりゃあ何にもなりたくないよ。来世なんかあってほしくもないからね。」

「来世があるとしてという話だよ。お前は冗談が通じないからいけないな。それじゃあ人間になりたい?それとも人間以外が良い?」

「今ここにいる僕とは違って、苦労することのない人間に限って言うならば人間だろうね。一方で人間でないなら牡蠣やフジツボが良い。岩に生えた蘚苔類なんかも大変良いね。」

「お前は変わってるよ。」

「じっとしていたい性分なんだよ。小学生の頃だって、誰かと関わって活発に出かけて回るというよりは、誰もいない図書館で図鑑を読むのが好きだった。僕は外界からの刺激をこよなく嫌うというわけではないけどね、しかし必要以上にはあってほしくないんだ。蝙蝠や渓流の魚なんかを考えてごらんよ。風の吹く枝に逆さ吊りになって動かない蝙蝠や,早瀬の中で流れに逆らいながら前にも後にも行かない魚は、風や水流を刺激としてぼんやり感じながらも自らの姿勢を保って楽しんでいるじゃないか。少なくともあれが彼らにとっての一番楽な形であることは確かだよ。それに生まれ変わりと言えば、滝なんてのも良いね。滝は忙しそうに見えるけれども、こちらが見ている分には一向に変化がない。言ってしまえば岩の隙間から水をぶら下げているだけなのだから気楽なものだよ。」

「酔うと随分話すね。俺だったら来世はプロ野球選手が良いかな。」

そう言って煙草をくゆらせた彼を見ていると、まるで哲学が違うことを直感した。そもそもの話として、酒に酔った僕に対して壮大な問いをしておきながら、自分は小学生のようなことしか言わないのだからひどいやつだなと思った。しかしこのようでいて気心の知れた仲なのだから、落語の「長短」の噺のようで不思議なものだ。

ジンジャーハイボールの入ったグラスを右手で持っていると左の手首に水滴が垂れた。ふと目をやると橈骨動脈の隣に鉛筆の芯が入っている。どうしてこうなったのかをよく覚えてはいないが、どうせ小学生の頃に鉛筆を振り回しでもして、不運にも自分の皮膚に突き刺さったのであろう。十年ほど前まではこれが気になって、いつか自分の血管を掻き切りやしないかと気が気でなかった。何かの拍子に鉛筆の芯がズブリと動いて僕の血管を切るかもしれないが、それならそれで構うことはない。しかしそれで死んだにしても無宗教の僕は何かに生まれ変わる妄想に浸ることは出来ず、したがって単に死ぬだけなのだから、やはり生まれ変わりのことなど考えるだけ無駄であろう。